南天での極軸合わせ


       

 南天での極軸合わせの困難さ

 南天で天体写真を撮影すると、星景写真やタイムラプス撮影の場合は、あまり関係ありませんが、数十秒を超えて星を止めて撮影しようと思えば、当然ながら赤道儀でのガイド撮影が必要となります。

 フルサイズで28ミリ以下、APSサイズで20ミリ以下の広角や超広角レンズなどを使用する場合はざっとした合わせ方でも1,2分の露出なら星はあまり流れることがありません。しかし、それら広角レンズでのガイド撮影は、画角の広い分、どうしても構図パターンが限られてしまいます。その結果、一晩中晴れても延々と同じような構図での撮影の繰り返しとなってしまいがちで、撮影を重ねていくと、最低でも35oレンズ、できれば50o標準以上のレンズや望遠鏡を使いたくなってしまいます。

 そのような標準以上のレンズを使用してガイド撮影をする場合、避けて通ることができないのが「極軸合わせ」です。南天での極軸合わせには、5等級台の星で作る「はちぶんぎ座の台形」を使うのが常套手段ですが、初めての場合は、日本では見えないためにそのイメージが全く湧きません。そのため、どうしてもぶっつけ本番で極軸合わせを行うことになります。私も初めてオーストラリアで撮影したとき(2012年)には、撮影現場にPCを持ち込み、ステラナビゲータの画面と比較しながらの極軸合わせでしたが、それでも極軸合わせに2時間かかりました。しかし、これも実際の撮影画像を見て星があまり流れていなかったので「ま、こんなもんか」という感じで、極軸が合っているかどうかの確証がないままの撮影でした。

 なぜ、確証が得られなかったというと、極軸望遠鏡内での「はちぶんぎ座の台形」の見え方がよくわからないのです。極軸望遠鏡をのぞきながら、天の南極付近を右往左往して探しても、形や大きさはさまざまですが、台形になる星の配列が複数存在し、どれが本当の台形かというのがわからないというのが正直なところでした。

事前にステラナビゲータなどでシミュレーションするとイメージがつかみやすい 
 
 2回目のオーストラリア遠征(2013年)では、1回目の反省から、遠征前にステラナビゲータを使って、自分の使用機材の極軸望遠鏡内での見え方を事前に調べました。いつも私が使っているポタ赤、スカイメモRSの極軸望遠鏡は、スペックを調べると、倍率4倍、視野が10度です。そのため、この10度の円をステラナビゲータの画像に重ねてみると、上の画像のような感じとなりました。この時は、5月上旬に行きましたので、極軸合わせ作業を行うであろう5月10日、現地時間午後8時、星の明るさもほぼスカイメモの極軸望遠鏡で見える星の明るさ程度にし、像も倒立にした上で、印刷をして現地に持ち込みました。

この中に、「はちぶんぎ座の台形」があるのですが、一度でも南天で極軸合わせを成功させた方なら、上の画像でどれが本当の「はちぶんぎ座の台形」かすぐにわかるかもしれません。しかし、初めての場合は、大きさや形がよくわからないこともあって、どの星を使って台形を作れば良いのかわからないと思います。 

 どれがはちぶんぎ座の台形かは、上の画像にマウスを重ねて下さい。
 
 スカイメモRSでのセッティング
 
 私が所有するスカイメモRSでは、上の画像(わかりやすいようにすでに倒立像にしてあります。)のうち、はちぶんぎσ、χと、〇で囲んだ合計4星を使うように説明書に書かれています。しかし、σ、χの5等級半ばの星でさえ、スケールパターンの照明を最小にしないと見えにくいのに、これ以外の2つの星は6等級半ばで、スケールパターンの照明を灯けるとほとんど見えません。

 ただ、極軸合わせをした経験から言いますと、はちぶんぎ座σ、χの2つだけをスケールパターンに合わせるだけでも、広角から標準くらいなら5分以上全く問題なくガイドができており、中望遠程度のレンズでも、3分程度であれば十分ガイドができています。

 参考までに、スカイメモRSの極軸パターンを星図に重ねてみました。画像の上にマウスを置くと、スカイメモのセッティングパターンが現れます。

 私はこの2星での極軸合わせで、多少時間を要するものの、撮影中に極軸合わせの正確さを以下のように追い込みながら撮影を行っています。スカイメモの追尾精度の優秀さも関係しているでしょうが、この方法で、APSサイズのカメラでも300ミリを超えるレンズのガイドもオートガイドなど使わずとも十分にできています。

 その方法とは、最初の極軸のセッティング直後は、極軸合わせの厳密さが必要ない標準程度のレンズで写真を撮ります。私の撮影スタイルとして3分×10コマ、あるいは5分×10コマを1セットとして撮影することがほとんどですから、これらの撮影が終わると、30分から1時間近く経過していることになります。

 ここで、もう一度、極軸望遠鏡を確認します。スカイメモRSの場合、赤道儀の駆動と一緒にスケールパターンも回転しますので、もし、最初のセッティングで正確に極軸合わせができていたら、スケールパターン上の星の位置は変わっていないはずです。しかし、ほとんどの場合、ここで若干のずれが生じてますので、もう一度極軸をセットし直してから、次の露出に入るわけです。これを2,3回繰り返して正確さを追い込み、ある程度正確になれば、200ミリ以上のレンズや望遠鏡に替えて撮影を行っています。

 最近では、極軸合わせを電子的に行う「ポールマスター」が発売されています。私も効率化をはかるために、一時購入を考えましたが、今のところこれで問題無く極軸合わせができていますので、機材に偏心が見られたりしない限りは、ポールマスターを導入することは無いと思います。

 はちぶんぎ座の台形の見つけ方
  さて、理論的に極軸の合わせ方の方法がわかっていても、「はちぶんぎ座の台形」がどこにあるかわからなければ、極軸合わせまで進むことができません。順序が逆になりましたが、ここで、その「はちぶんぎ座の台形」の見つけ方を説明したいと思います。

 最近では、スマホのアプリのひとつに、角度や傾斜などを測ることができるアプリがあります。私はそんなアプリを極軸のセッティング時に利用しています。まず、同じくスマホに標準で入っているコンパスアプリを使って、赤道儀をおおよその方向に向け、次に同じくアプリで赤道儀の仰角を測って撮影地の緯度に調整していきます。

 運がよければ、これで極軸望遠鏡をのぞけば、「はちぶんぎ座の台形」が入ってくれていることがあります。しかし、時には、コンパスが赤道儀の金属部分や使われている電子部品の影響を受け、意外にずれていることもあり、そのような場合は、自分の肉眼を頼りに「はちぶんぎ座の台形」を入れる必要があります。

 自分で探す時には、南天の星空をとりあげている他の方のサイトでも紹介がありますが、みずへび座のβ星からたどるとわかりやすいです。この星は、2.8等級と明るく、小マゼラン星雲のすぐそばにあり、近くにはこの星を上回るような明るい星はありませんので、どれがそうなのか簡単に判断できます。

 極軸望遠鏡では、まず視野にこのみずへびβを入れ、小マゼラン星雲とは反対方向に少しずつずらしていきます。すると、、3つの5等級台の星で作る「へ」の字に並んだ星の並びが見つかります。スカイメモの場合ですと、極軸望遠鏡の視野が10度ありますから、みずへび座βと同視野に入ってきます。タカハシの小型赤道儀やビクセンの極軸望遠鏡(6倍8度)でも、同視野に入ると思いますので、それらをお使いの方もここまでは簡単に導入できるでしょう。そこまで到達すれば、同じ方向にさらにずらしていけば、「はちぶんぎ座の台形」まで到達します。これもスカイメモの極軸望遠鏡では、「へ」の字の星の並びと、「はちぶんぎ座の台形」が余裕をもって同視野に入るので、かなりわかりやすいですが、タカハシやビクセンの極望でも台形の4つの星のうち、3つは同視野に入ってくると思います。

 このとき、台形の傾きなど、あらかじめ上で行ったようにシミュレーションしておいたり、実際に極軸合わせを行う時間に合わせて天の南極付近の星図を印刷して持っておいたりすると、ここから先は意外と簡単に極軸合わせができます。

 
 
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