撮影地その2
ハン川(Hann river)

  



2013年5月10日の金環日食帯
ハン川付近では午前9時ころ金環日食となりました。
  2013年5月10日、金環日食を観測するためにこの地を訪れました。

 その時の金環日食帯は、ケアンズから北に400qほど離れたところを通過するもので、大きな都市はもちろん、街らしい街はいっさい通りません。それどころか、ほとんどの範囲でアネクメーネ地域、つまり居住困難地域なのです。

 もし、これがオーストラリア、さらに一度行ったことのあるケアンズの近くで起こらなければ、例え金環日食であっても、まず行くことはなかったと思います。

 そんな辺鄙な場所に行くことを決心させた理由は、やはり、その前年に体験したオーストラリアの星空でした。半ば逆転の発想で、「アネクメーネ地域なら、光害の影響は皆無だろうし、9日の夜に現地に入れば、10日の朝起こる日食の前に、天の川の撮影もできる!これは一石二鳥だ!」と。
 

 行くことを決めた以上、まずは観測地の決定からはじめました。もちろん、金環日食帯に入らないと、金環日食は観測できません。そこでお約束のグーグルアースを使って調べてみると、ひとつの道が目に飛び込んできました。それが、ヨーク半島を縦断する道路、ペニンシュラデベロップメントロードでした。

 ストリートビューなどを駆使して調べてみると、なんとこの道、金環日食帯に入る手前にある集落、ローラから北は舗装されていないのです。しかもところどころ存在する川の中には橋が架かっていないところもあり、そのな場所は車で川を横断しなければならないという何ともワイルドな道だったのです。

 ところが、さらに調べてみると、この道を横断するこれらの川は、乾季である5月から10月くらいまでは干上がって水が流れていないことがわかりました。とは言え、観測に出かけるのは5月9日。乾季に入ったばかりということで、ひょっとしたら雨季の水がまだ残っている可能性もあります。そのようなリスクを覚悟の上、車高の高い四輪駆動車、三菱パジェロを手配し、結局、特に観測場所を決めないまま、このペニンシュラデベロップメントロードを北上することにしました。



2013年の金環日食を観測したハン川 


どこまでも伸びる直線道路、そして未舗装道路


 ケアンズ市内を午後6時ころ出発し、ひたすら北上しました。ここでまた日本では考えられないことに遭遇します。

 マウントカービンという街を過ぎたくらいから、道が直線的になっていくのです。加えて一般道路ですが信号もありませんので、高速道路感覚の時速100q、時にはそれ以上の速度で走れます。さらに、夜ということも関係したと思いますが、北上するにつれ、車の量も少なくなり、そのうち目視可能な前後の範囲で車を見かけることもなくなりました。

 また、直線がいかに長いかを裏付ける出来事もありました。たまに遭遇する対向車が、ライトが見えてからなんと10分以上してようやくすれ違うのです。その時は夜間で周りの様子がわからなかったのですが、後で調べるとその地点はなんと20q以上も続く直線道路だったのです。

 そして午後9時頃、ケアンズから 200qほど走ったところにあるパルマ―リバーのロードハウスに午後9時頃到着。ここで休憩を行いました。

 ロードハウスとは、幹線道路沿いにあるガソリンスタンド、レストラン、簡易宿泊所が一体となった言わばドライブインのようなものです。オーストラリアでは場所によっては、街と街が数百qも離れているために、ある意味、重要な施設とも言えます。実際、このロードハウスに立ち寄ったときも、次のロードハウスまであと何qという案内がありました。

 ロードハウスは一般的に営業時間は午後10時までの営業です。つまり、ここで給油をしておかないと、翌日の朝まで給油できない可能性があります。このような人口が少ない地域では、車のガス欠は命取りになりかねませんので、念のためここで給油を行うことにしました。

 そして、観測地までの最後の集落、ローラを過ぎるとついにその道は姿を現しました。そうです。未舗装道路です。

 途中、グーグルアースのストリートビューでも確認したとおり、やはりいくつかの川には橋が架かっていませんでした。案の定、一部、水が流れているところもありましたが、どこも浅かったため、問題無く川を横断することができました。
 
どこまでも続く(ように見える)直線道路

ペニンシュラデベロップメントロードの様子
両サイドにはユーカリの木があり、
その中をこのように真っすぐな道が通っています。

帰りに立ち寄ったローラのロードハウス
 未舗装道路を70qほど走破したところで、一時的に周りのユーカリの高さが低く、視界が大変広い場所を通過しました。もちろんあたりは真っ暗ですが、南十字やさそり座が車の窓越しに良く見えます。車で通過しながら、「もう、金環日食帯に入っていることだし、ここが第一候補かな。」と思いながらさらに北上すると、再びユーカリの背丈が高くなっていきます。

 その時、時刻はすでに午後11時も過ぎており、そこから10q程度進んだところで、他にめぼしい場所もなかったことから、結局先ほど視界が広かった場所を撮影地とすることにしました。

 夜、天の川の撮影を行っているときには気づかなかったのですが、その場所がなぜ視界が広かったか朝になってわかりました。実はその場所、雨季には川底になるところだったのです。どうりで木があまり生えていないはずです。
 
雨季は川底になってしまうハン川の観測地
星で影ができるくらいの空の暗さ
 この場所は、一番近い集落は約70q先のローラ、しかも人口が100人程度しかいません。また、その次の集落、マスグレイブまでも同じくらい距離があります。よって、言わずもがな、光害は皆無でした。

 少し残った水たまりに発生したと思われる蚊には悩まされましたが、今まで見たことがないほどの真っ暗な空で、一番驚いたのは、天の川にある暗黒帯が不気味なほど黒いことです。徳島県でも南部に行くと、暗黒帯の存在は肉眼で確認できるのですが、ここでは空の他のどの場所よりも暗黒帯の方が黒く見えるのです。

 撮影を続けていると午前4時ごろ、東の空がぼんやりと明るくなってきました。最初、薄明が始まったかと思ったのですが、この日の日の出は午前6時半ごろですから、薄明が始まるにはまだ早すぎます。

 この明るい光芒、日本ではその存在すらほとんど感じることがない黄道光だったのです。その明るさは、東の低空の撮影が困難になるほと明るく、午前5時すぎには、天頂近くまで達するようになりました。
 
 つまり、ここでは薄明より先に黄道光の影響で撮影が難しくなってしまうのです。まさに別次元の撮影地と言えます。
 
ハン川で見られた強烈な黄道光
 
ハン川での天の川
画像右上部から左下にかけてうっすらですが黄道帯光が見えます。
撮影データは画像のコーナーを参照